「毒親」というワードは一般的になった。親と距離を置くことにも、(以前と比較すれば)理解を得やすい時代になってきた。
ただ、毒親と距離を置いてもなお、日常生活の中で、後遺症的な症状に悩まされることも多い。
他の人は平気なのに自分だけ過剰反応するのなら「トラウマ反応」かもしれない
たまたま読んでいた、「お母さん、私を自由にして!」という本の中に、【毒母の後遺症から脱するには】という章があった。
後遺症にはさまざまな種類があるものの、
ほかの人は 平気なのに、 自分だけ妙に反応しているとき、現実に比しておおげさな不安や怒りがこみあげるときは、トラウマ反応が起きています。
お母さん、私を自由にして!
という。
同著では、例として下記のようなケースが挙げられていた。
・同僚は平気そうなのに、わたしだけ、上司の叱責にふるえあがってしまう
・電車に乗っていると、だれかと目が合うのが怖くて視線のやり場に困る
・だれかがひそひそ話していると、自分のことを言われているようで落ち着かない
・だれかが不機嫌そうにしていると、自分が悪いのではないかと不安になる
・何かが「わからない」と思うと、頭が真っ白になってしまい、何も言えなくなる
・何かをしようと思っても、「そうしてはいけない」とブレーキがかかり動けない
・まだ余裕があるのに「間に合わないかも!」とすぐアセってしまう
お母さん、私を自由にして!
私が特に共感したのは、一番最初の、「同僚は平気そうなのに、わたしだけ、上司の叱責にふるえあがってしまう」というもの。
私は過去にいたとある会社で、年上の上司の機嫌が、気になって気になって気になって仕方なかった。
異常に上司の顔色・機嫌を伺いまくった日々
ちょっとでも上司の顔色が曇ったり、イライラした様子を見せたりすると、心臓がビックンと跳ね上がる感じがする。
上司と自分が対面で話しているとき以外でも、全身が耳のようになって、上司の様子をキャッチする。
ドアを開け閉めする音、足音、ライターを触る音、ペンを回す音……
それらすべてを吸収して、自分が上司を不機嫌にさせているのではないかと、怯える。
今思うと、完全に行き過ぎているし、自分がオカシイことはよくわかるのだけれど、一度そのゾーンに入ってしまうと、這い上がるのは難しかった。
毎日、ビクビクしながら過ごしていた。
ビクビクしているくせに、イライラする
ここまでの文章だけ読むと、
- 萎縮してビクビクしている気の小さい女性社員
の姿がイメージされると思う。
しかし、一方で、私は非常に「イライラ」もしていた。
怖くて怖くて怖くてたまらないからこそ、攻撃性を備えてしまっていたのだと気付いたのは、随分あとになってから。
前述の本の中にも、
- 「ほかの人はそんなに気にしていないようなのに、自分だけがイライラするのは毒母育ちのせいかもしれない」
という記載がある。
職場で、家庭で、やたらとイライラして、周囲にあたりちらしてしまう。
あたりちらさないまでも、自分の中で怒りがつねに渦巻いていて、苦しくなってしまう。
特定の場面や、特定の人にたいしてイラッとしてしまい、仕事や人間関係に支障をきたしている……。
あなたにも、そんな悩みはないでしょうか?
ふつう、イライラしたり、ムカついたり、ハラが立ったりしたら、自分をそうさせた相手なり状況なりがいけないんだと思いますよね。
「なんで言うことをきかないの!」
「なんでそんな言い方しかできないわけ?」
「なんでも人のせいにするなんてヒドイ!」
「どうして時間くらい守れないの?」などなど、原因である人や状況のことを、あれこれ考えて責めてしまいがちです。(中略)
ほかの人はそんなに気にしていないようなのに、自分だけ過剰に反応してイライラするとしたら、それは毒母育ちのせいかもしれません。
お母さん、私を自由にして!
毒親問題が難しいのは、自分も攻撃性を持ってしまうから
毒親育ちの人は、「自尊心が低くて、自分に自信が持てない」とよく言われる。
それは、「育ちの過程」のほかにもうひとつ、
- 毒親育ちで形成された自分の性格が悪いから
という一面があると思う。
萎縮しておとなしくなっているだけならまだしも、多くの人が、
- 「罪のない周囲の人たちに対して攻撃性を持ってしまう自分の性格」
に、意識的にしろ無意識的にしろ、罪悪感や嫌悪感を抱いている。
「ありのままの自分を受け入れる」と言われて、弱い自分を受け入れることはできても、攻撃的な自分までも受け入れることは、とても難しい。
攻撃的な自分を解消していくための方法は、以前このブログでも紹介した、「キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~」が、参考になるかもしれない。
なぜ毒親育ちはイライラしやすいのか?
話を戻して、「毒親育ちの人がイライラしやすい」ということについて。
その理由は、目の前にいる人に、自分のトラウマを投影しやすいからだ(投影してしまうトラウマを抱えているということ)。
自分でも、何が気に入らないのかさっばりわからないけれど、とにかくイライラする!そんなこともあるでしょう。
正当な怒りでない場合の怒りは、じつは「八つ当たり」であって、目の前の現実は本当の原因ではありません。
たとえば上司に仕事上の指示をされただけでイラッとするとしたら、それは指示を出した上司のせいではなく(上司は当たり前のことをしているだけですから)、目上の人に「指示された」という状況が、過去のいやな経験と無意識にリンクして、その当時、ガマンした感情が瞬時に浮上し、それでイラッとするのです。
お母さん、私を自由にして!
この事例、私にも、当てはまる。
上司が怖くて怖くて、機嫌が気になって気になって、顔色をうかがいまくっているくせに、上司の指示の仕方や物の言い方で、ものすごくイラッとする。
この事例の背景には、例えば次のような状況が考えられるという。
たとえば、おっかない父親から、いつもあれこれ細かく指示されていた、したがうのはイヤだったけれど、言う通りにしないと怒られて怖い思いをするから、イヤイヤしたがっていた……。
そんな子ども時代を送った人は、頭ごなしに指示命令してくる父親への怒りをずっとガマンしてきたことになります。
でも、本人も、父親への怒りをガマンしてきた、という意識はありません。細かく指示命令されていたことも、忘れているかもしれません。
ところが、潜在意識の中には、ガマンして抑え込んできた怒りという感情が、たくさんたまっているのです。
だから、上司が当たり前のように何かを指示してきたときに、ふつうの人なら気にならない程度のことでも、その人は、「父親の指示にむりやりしたがわされてきた」ことへの怒りが瞬時に浮上してしまい、それでイラッとくるわけです。
お母さん、私を自由にして!
こういった「仕組み」を理解せずに、上司や会社に対して不満を訴えても、転職を繰り返しても、また同じことが起きるだけ。
- イライラする原因を持っているのは、上司ではなく自分
ということに深く気付くことが、第一歩として有効だ。その気付きのきっかけとして、本を読むことも効果的だと思う。
「●●さんは、お母さんじゃない」「●●さんに嫌われたっていい」
ちなみに、私が上司への反応を改善するために実践した対処法のひとつは、上司のことが気になったりイライラしたり、何かしらの「反応」を確認する度に、しつこくしつこくしつこく、それを訂正するというのを繰り返すこと。
具体的には、次のようなフレーズを自分に言い聞かせていた(●●さん=上司の名前)。
- ●●さんは、私のお母さんじゃない
- ●●さんに嫌われたっていい
親を上司に投影している場合、
- 嫌われたら(見放されたら)死ぬかも
という生命の危機と結び付いている(子どもの頃は、親に嫌われる=死を意味していたのだから)。
その「洗脳状態」にある自分に明確に気付いて、洗脳を繰り返し繰り返し解くような言葉を、自分に浴びせると、徐々に反応が薄まっていった。
また、無意識でいると、ついつい思考が上司のことをリピートして考え続けてしまう時期もあった。
おそろしいことに、貴重な人生の大多数の時間を、好きでもない上司のことを考えて過ごしてしまう状態だった。
それに気付いてからは、思考がそちらにとらわれる度に、よく言われる「今ここ」に集中することで、矯正していった。
- 「自分にストレスを与えること(このケースでは上司)を考え続ける」
というのは、そのストレスにエサを与え続けるようなものだ。
だから、
- 「わたしはもう、●●さん(ストレス)にエサをやらない」
とキッパリ宣言して、考えそうになる度に、何度でも矯正するようにする。
最初は根気が必要だけれど、エサを断ってしまえば、徐々に徐々に、自分の中での存在感は確実に薄まっていく。