よく雑誌で、「○○の薬は危険!」「薬を飲んではいけない!」というような、センセーショナルな記事が掲載されている。
今週の週刊ポストでは、逆に、「薬を飲むなら、この10種類」という特集記事が組まれていた。
この記事の情報は2017年時点のものである。 薬の承認状況や処方ルールはその後変更されているものも含まれるため、実際の服用にあたってはかならず担当の医師・薬剤師に相談してほしい。とくにエチゾラム(商品名:デパス)は、2016年10月に第三種向精神薬に指定され、処方日数が3日分に制限されるなど、規制が大幅に強化されている。(2026年2月28日追記)
薬の飲みすぎは良くないが飲まなすぎも良くない
薬を飲んではいけないという警鐘や、代替医療の情報などに触れると、
「薬を飲むほど、体の具合が悪くなるに違いない」
という感じさえしてくる。
実際、効果以上に副作用が大きく、慎重に服用を判断すべき薬は、多いという。
しかし、薬の飲みすぎが良くないのは当然だけれど、「必要な薬さえ飲まない」という姿勢は、無駄に体をむしばんでしまう。
週刊ポストでは、7人の名医が、それぞれの立場から、「10種類の飲むべき薬」をピックアップして紹介している。以下、週刊ポストより引用。
これまで、本誌を含めたメディアは薬のリスクにばかり着目し、「薬を飲む量は少ないほうがいい」と繰り返し報じてきた。だが、「どの薬にどんなリスクがあるのか」「どの薬を飲んではいけないのか」は述べられていても、「どの薬を飲めばいいのか」について説明されることは少なかった。一体、患者はどの薬を飲めばいいのか。それを最もよく知るのが「無用な薬を患者に飲ませるべきではない」という考えに立った上で臨床現場で長く薬を処方してきた医師たちである。そこで本誌は今回、名医と呼ばれる医師に“それぞれの選び方の基準”に基づく「患者に勧めてもいい10種類の薬」を聞いた。
週刊ポスト 2017年 9/29 号
飲むべき薬のリスト
週刊ポストでは、4ページに渡って、飲むべき薬について解説している。詳細は週刊ポストを読んでいただいたほうがよいので、ここでは、どの薬が挙げられていたかだけ、一覧で紹介しておく。
浜松医科大学名誉教授・高田明和先生〈内科〉
- アムロジピン(血圧を下げる)
- ニューロタン(血圧を下げる)
- ニトロール(狭心症の発作を止める)
- ハルシオン(睡眠障害の改善)
- メバロチン(コレステロール値を下げる)
- ストッパ下痢止めEX(下痢止め)
- メトグルコ(血糖値を下げる)
- クラビット(感染症を治す)
- エチゾラム(不安を取り除く)
- ロキソニン(鎮痛)
新潟大学名誉教授・岡田正彦先生〈内科〉
- タイレノール(鎮痛解熱)
- パンシロントリム(胃痛改善)
- ビオフェルミン止瀉薬(下痢止め)
- オーグメンチン配合錠(感染症を治す)
- コーラックハーブ(便秘改善)
- レンドルミン(不眠改善)
- プレドニゾロン錠(炎症をおさえる)
- アドエア吸入剤(喘息・COPD〈慢性閉塞性肺疾患〉をおさえる)
- 水・電解質輸液(水分・電解質の補給)
- ヴィックスメディケイテッドドロップ(のどの痛み・咳止め)
日本在宅薬学会理事長・狭間研至先生〈外科〉
- タケプロン(胃炎・胃潰瘍の改善)
- レニベース(血圧を下げる)
- セイブル(血糖値を下げる)
- メバロチン(コレステロール値を下げる)
- バイアスピリン(脳梗塞の予防)
- カルボシステイン(たんの切れの改善)
- ハルナール(排尿障害の改善)
- バップフォー(頻尿改善)
- ルネスタ(睡眠障害の改善)
- 抑肝散加陳皮半夏(軽度の認知症の治療)
川崎医科大学教授・永井敦先生〈泌尿器科〉
- バイアグラ(EDの改善)
- テストステロン製剤(男性ホルモン補充)
- α遮断薬(排尿障害の改善)
- ルボックス(抗うつ)
- ガスター(胃痛改善)
- 補中益気湯(免疫力の向上)
- ロキソニン(鎮痛解熱)
- フロモックス(感染症を防ぐ)
- プレドニン(炎症をおさえる)
- 正露丸(下痢止め)
池谷医院理事長・池谷敏郎先生〈循環器科〉
- エパデール(中性脂肪値を下げる)
- ロトリガ(中性脂肪値を下げる)
- クレストール(コレステロール値を下げる)
- アムロジピン(血圧を下げる)
- フェブリク(尿酸値を下げる)
- ジャディアンス(血糖値を下げる)
- フォシーガ(血糖値を下げる)
- タケキャブ(胃痛をおさえる)
- 麻黄湯(風邪の症状を緩和する)
- 小青竜湯(鼻炎の緩和)
おおたけ消化器内科クリニック院長・大竹真一郎先生〈内科〉
- ネキシウム(胃痛をおさえる)
- 麻黄湯(風邪の症状を緩和する)
- イリボー(下痢止め)
和田秀樹こころと体のクリニック院長・和田秀樹先生〈精神科〉
- ドグマチール(うつを改善する)
- デジレル(うつを改善する)
- パキシル(うつを改善する)
- エビリファイ(精神症状を改善する)
名医たちのリストから見えてくる傾向
7人の名医が挙げた薬を俯瞰すると、いくつか興味深い傾向が浮かび上がる。
ほぼ全員が「胃腸薬」を挙げている
もっとも目立つのは、専門分野を問わず大半の医師が何らかの胃腸薬を選んでいる点だ。タケプロン・ガスター・ネキシウム・タケキャブ・パンシロントリム・正露丸……名前はバラバラだが、「胃腸を守る薬は手放せない」という認識は共通している。
裏を返せば、胃腸トラブルはそれだけ“誰にでも起こりうる身近な不調”ということ。ストレス社会で生きている以上、胃の調子を崩すリスクは常につきまとう。専門医でさえ胃腸薬を必需品と捉えているのだから、日頃から自分に合った胃腸薬を把握しておく意味は大きい。
降圧薬・血糖降下薬・コレステロール薬が定番
アムロジピン(降圧)は高田先生と池谷先生が、メバロチン(コレステロール低下)は高田先生と狭間先生が、それぞれ選出している。血糖値を下げる薬も、メトグルコ・セイブル・ジャディアンス・フォシーガと種類は異なるが、内科系の医師を中心に複数名がリストに入れた。
これらはいわゆる生活習慣病の三大リスク(高血圧・高血糖・脂質異常)に対応する薬。派手さはないが、放置すれば脳梗塞・心筋梗塞・腎不全といった致命的な疾患に直結する。「飲むべき薬」に生活習慣病薬が並ぶのは、まさに“地味だが命を守る薬”の代表格だからだろう。
なお、池谷先生が挙げたジャディアンスとフォシーガは、ともにSGLT2阻害薬(腎臓での糖の再吸収を抑えて血糖を下げる薬)に分類される。この記事が書かれた2017年当時は血糖降下薬として紹介されていたが、その後の研究で心不全や慢性腎臓病への保護効果が次々と証明されたそう。
現在では糖尿病の有無にかかわらず、心不全患者が優先的に使用すべき薬のひとつとして国内外のガイドラインに組み込まれている。2017年時点でこの2剤を選んでいた池谷先生の先見性がすごい。
鎮痛薬はロキソニンとタイレノールの二大勢力
痛みへの対処として、高田先生・永井先生がロキソニンを、岡田先生がタイレノールを選んでいる。どちらも広く使われる鎮痛薬だが、作用の仕組みが異なる。ロキソニンは消炎鎮痛作用が強い反面、胃腸への負担が大きい。タイレノール(アセトアミノフェン)は胃への負担が比較的少なく、処方薬のカロナールと同一成分であるため安全性が高いとされる。
岡田先生が別記事で述べているとおり、成分が単一の薬のほうが副作用のリスクを管理しやすい。市販の総合感冒薬のように多成分を一度に摂取するよりも、症状にピンポイントで対応する単剤を選ぶという発想は、セルフメディケーション(自分自身の判断で市販薬を選んで使う健康管理)の基本として覚えておきたい。
漢方薬の存在感が意外に大きい
狭間先生の抑肝散加陳皮半夏、永井先生の補中益気湯、池谷先生の麻黄湯・小青竜湯、大竹先生の麻黄湯など、漢方を推す医師は複数いる。とくに麻黄湯は池谷先生と大竹先生の2名が風邪の症状緩和として選出しており、西洋医学の専門家であっても漢方の実用性を認めている点が興味深い。
「漢方はなんとなく効く気がする程度のもの」としか捉えない人もいるが、このリストを見る限り、現場の医師たちはかなり実践的に漢方を取り入れている。
精神科系の薬が5人のリストに登場する
高田先生(ハルシオン・エチゾラム)、岡田先生(レンドルミン)、狭間先生(ルネスタ)、永井先生(ルボックス)、和田先生(ドグマチール・デジレル・パキシル・エビリファイ)と、睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬を挙げた医師は7人中5人にのぼる。精神科の和田先生だけでなく、内科や泌尿器科、外科の医師まで精神科系の薬をリストアップしているのは象徴的だ。
不眠や不安は、もはや精神科だけの問題ではない。あらゆる診療科の患者が抱えうる“横断的な不調”であり、名医たちのリストはその現実を反映している。
ただし、前述のとおり、エチゾラム(デパス)は2016年に向精神薬指定を受け、依存性の高さが広く認識されるようになった。睡眠薬や抗不安薬は「飲むべき薬」である場合もたしかにあるが、漫然と飲み続けるリスクも大きい。このカテゴリの薬こそ、主治医との綿密な相談が不可欠である。
このリストの読み方——「正解の薬リスト」ではない
最後に大切な点を補足しておく。このリストは「これさえ飲めば大丈夫」という正解表ではない。7人の名医がそれぞれの臨床経験と専門性に基づいて選んだものであり、同じ降圧薬でもアムロジピンを推す医師もいれば、レニベースを推す医師もいる。正解はひとつではなく、自分の体質・既往歴・生活環境によって最適な薬は変わる。
「薬は絶対に飲むな」も「この薬を飲めば安心」も、どちらも極端すぎる。このリストから読み取るべき本当のメッセージは、信頼できる医師と対話しながら、自分に必要な薬を見極める姿勢こそが最大の“良薬”であるということだ。

