「栄養素」と「精神」の関係に気づいてからは、自分の心をケアするのが、とてもラクになった。
端的にいえば、自分をコントロールできるようになった。栄養素と精神の関係に気づく前の私は、[自分以外の何か(ここでは食べ物)]に、いつも振り回されていた。自分で自分の操縦席に座れていない感じが、すごくイヤだった。
この記事では、とくに私にとって影響が大きかった鉄・マグネシウム・亜鉛・塩(ナトリウム)という4つのミネラルが精神に与える影響について、体験と医学的な根拠の両面から深掘りしていく。
すべては性格の問題ではなく栄養の問題かもしれない
これまで、メンタルにひも付く苦しみをいくつも経験した。とくに仕事と絡む悩みは逃げ場がなかった。
- スピーチやプレゼンで緊張してしまう(大量の汗、赤面、パニック)
- 威圧的な上司の前で適切な態度が取れない(過緊張)
- 大量の仕事をこなさなければならないのに集中力が続かない
なんとかしたくて心療内科に通った時期もある。必死だった。
振り返って思うのは「心の問題」だと思い込んでいた不調の多くが、じつは「ミネラル欠乏」だったのでは?ということ。
たとえば、鉄欠乏の状態では、不安・焦燥感・抑うつ傾向・集中困難など、うつ病など酷似した症状が出る。日本医事新報社「鉄欠乏や葉酸欠乏の原因および精神状態との関連は?」
なぜミネラルが脳を支配するのか?神経伝達物質の「材料」問題
私たちの感情・やる気・集中力・睡眠のリズムを制御しているのは、脳内の神経伝達物質だ。代表的なものを挙げると以下のとおり。
- セロトニン: 精神の安定・幸福感に関わる。不足するとうつ・不安・パニック障害の引き金になる。
- ドーパミン: 快感・意欲・やる気に関わる。不足すると無気力・集中力の低下を招く。
- ノルアドレナリン: 覚醒・ストレス対処に関わる。バランスが崩れると過緊張や不安を引き起こす。
- GABA: 神経の興奮を抑制するはたらきがある。不足するとリラックスしにくくなる。
これらの神経伝達物質は、タンパク質(アミノ酸)を原料にして、鉄・マグネシウム・亜鉛・ビタミンB群などの補酵素や協同因子のサポートを受けながら合成される。原材料(タンパク質)があっても、加工する道具(ミネラル)が不足していれば、脳は必要な神経伝達物質を十分に作れない。
いくら「前向きに考えよう」と思っても、脳がセロトニンやドーパミンを物理的に作れない状態では、前向きになれるはずがないのだ。
この事実を知ったとき、私はちょっと救われた気持ちになった。自分の心の弱さのせいと思っていた不調に、フィジカルな原因があったのだから。
ブレインケアクリニック「鉄欠乏について」、テスラクリニック「鉄不足でうつや不安に?」
❶ 鉄:隠れ貧血で心が不安定になる
ここからは、各ミネラルの詳細をひとつずつ見ていきたい。まずは「鉄」。
鉄不足の精神症状はうつ病と見分けがつかない
鉄が精神に及ぼす影響は、想像以上に広く深い。
鉄はセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンの合成に不可欠な栄養素。不足すると、これらの神経伝達物質の産生が低下し、うつ症状・意欲の低下・情緒不安定・イライラなどの精神症状が生じる。
血液検査では、ヘモグロビン値が正常範囲に入っていれば「貧血は問題ありません」と言われる。しかし、ヘモグロビンが正常でも、体内の鉄の貯蔵量を示すフェリチンが枯渇していれば、精神面に影響が出る。これがいわゆる“隠れ貧血(非貧血性鉄欠乏)”だ。
鉄欠乏がもたらす症状
鉄欠乏の症状は精神面だけにとどまらない。全身に多彩な影響を及ぼす。
① 骨・皮膚・粘膜の障害: あざ、コラーゲンの低下による骨・肌の異常、爪・毛髪・舌の異常
② 知能・情動への影響: 不眠・集中力の低下・学習障害・うつ・パニック障害
③ ホルモンへの影響: 甲状腺ホルモンの成熟障害、不妊症
④ 白血球・免疫への影響: 抵抗力の減少
⑤ 消化系に及ぼす影響: 嚥下障害、食欲不振、下痢、便秘、氷を好んで食べる
⑥ 不定愁訴: 頭痛・イライラ・耳鳴り・肩こり・寝坊癖・疲労・むずむず脚
私自身、鉄欠乏症状を知ったとき、「栄養素と精神は本当に密接につながっているんだ」と心から実感した。鉄分補給の詳細については、過去記事で書いている。

新百合ヶ丘総合病院「鉄欠乏症状について」、働く女性のウェルネス向上委員会「女性の不定愁訴、メンタル不調は鉄欠乏・隠れ貧血を疑って!」
❷ マグネシウム:天然の精神安定剤としてはたらく
次に「マグネシウム」の話。
神経の興奮を抑えたりGABAをサポートしたり…
マグネシウムは体内の300種類以上の酵素反応に関わるミネラルであり、“天然の精神安定剤”とも呼ばれる。神経の興奮を抑え、GABAのはたらきを支援し、セロトニンの分泌を促進する役割を持つ。
不足すると、イライラ・不安感・不眠・気分の落ち込み・集中力の低下が生じる。こむら返りやまぶたのピクピクも、マグネシウム不足のサインだ。
ストレスでマグネシウム消費→不足でストレス耐性が下がる悪循環
マグネシウムは、精神的ストレスを受けると尿から大量に排泄される。つまり、ストレスが多い人ほどマグネシウムが失われやすい。マグネシウムが失われればストレス耐性が下がり、さらにストレスを感じやすくなる…という悪循環。
加えてアルコールもマグネシウムの排泄を促進する。仕事のストレスを酒で紛らわせる行為は、マグネシウムの観点からいえば非常によくない。
マグネシウムの詳細は、過去記事にまとめている。

東京原宿クリニック「マグネシウム不足の症状と原因」、アンファーからだエイジング「意外な盲点!からだの不調はマグネシウム不足の影響かも」
❸ 亜鉛:やる気ホルモンの材料で食欲とも深く結びつく
続いて「亜鉛」。
うつ病患者の亜鉛の血中亜鉛濃度は低い
亜鉛は体内の200種類以上の酵素の機能に必要な必須ミネラル。脳の領域でいえば、記憶をつかさどる海馬に亜鉛が多く存在し、“やる気ホルモン”であるドーパミンの合成や、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生にも関わっている。
注目したいのは、うつ病患者では血中亜鉛濃度が低い傾向が複数の研究で報告されていること。さらに、抗うつ薬と亜鉛サプリメントを併用した群は、抗うつ薬のみの群と比較して、うつ症状の改善度が大きかったという研究報告もある。
亜鉛不足が食欲と血糖値を狂わせる
亜鉛には、もうひとつ、見逃せない機能がある。血糖値を下げるインスリンの分泌とタイミングの調整に亜鉛が関与しているのだ。
亜鉛が不足するとインスリンの分泌タイミングが狂い、血糖値が不安定になる。これが食欲のコントロール異常につながり、いわゆる“甘いものがやめられない”状態を引き起こす。摂食障害の患者を調査したところ、半数以上が亜鉛欠乏だったというデータも報告されている。
味覚障害も、亜鉛欠乏の症状として、よく知られている。
亜鉛については過去記事でも取り上げている。

高津心音メンタルクリニック「亜鉛とうつと健康」、Meiji Seikaファルマ「亜鉛は前を向いていきたい人におすすめの栄養素!」、新百合ヶ丘総合病院「亜鉛欠乏症状について」、ブレインケアクリニック「亜鉛欠乏の症状と対策」
❹ 塩(ナトリウム):ひと舐めで精神錯乱が消えた
最後に「塩(ナトリウム)」
減塩と塩を排除しすぎるリスク
「塩分の取り過ぎは良くない」というのが現代の常識であり、WHOは1日5g未満を推奨、日本の食事摂取基準(2020年版)でも男性7.5g未満、女性6.5g未満が目標量。高血圧のリスク因子であり、美容面では「むくみの大敵」ともいわれる。
これは正しい。だが、いっぽうで見落とされがちなのが、塩を排除しすぎたときのリスクだ。
ナトリウムは体内の浸透圧の調節や、神経・筋肉の正常なはたらきに不可欠なミネラル。血中ナトリウム濃度が低下する「低ナトリウム血症」になると、最初に影響を受けるのは脳。疲労感から始まり、反応の鈍化・錯乱・頭痛・嘔吐と進行し、重症化すれば痙攣や昏睡に至る。
ダイエットの極端な食事制限や激しい運動による大量発汗などは、ナトリウム欠乏を引き起こしやすい。
民間療法の世界では「精製塩は避け、天然塩は積極的に取るべき」という説もよく聞く。私の体の実験に限っていえば、「天然塩をきちんと取ったほうが精神が安定する」という実感は、たしかにある。だから精製塩は10年以上買っておらず、いつも天然塩(ぬちまーす・紫塩・海の精など)が家にある。

摂食障害がひどかったとき塩に救われた話
私のなかで鮮烈に残っている体験がある。
摂食障害がひどかった時期、私は異常な焦燥感に追われて、わけがわからなくなっていた。単に「心がつらい」という状態を大きく飛び越えて、「何をしでかすか、わからない」という危険な状態だ。精神の錯乱状態といっていい。
そのとき、なぜかわからないが、塩をパッと取って舐めた。
そしたら、うそのように、すべてがスーーーーーーーッと消えていった。
私は摂食障害という「心の病気」のせいでつらいのだと思っていた。しかし、その苦しみの大部分は、摂食障害によって必要な栄養素を取れていないせいで起きている「身体由来の精神症状」だったのだ。
客観的に見れば「そりゃ当然でしょう」という話かもしれないけれど、渦の中にいる当事者としては、大発見と思えるくらいに重要な気付きだった。
メディカルノート「低ナトリウム血症について」、MSDマニュアル「低ナトリウム血症」
多くの問題は栄養でコントロールできる
この記事では、鉄・マグネシウム・亜鉛・塩を取り上げたけれど、私たちが「自分の性格」や「ストレス耐性」として捉えている問題の多くは、栄養でコントロールできる。
その観点を、人生に早い時期にしっかり認識できた人は、人生の難易度が下がると思う。私自身、栄養素によって問題をコントロールできるようになってから、格段に生きやすくなった。
とくに、「栄養によって心身が大きく影響を受けやすいタイプの人」が存在すると思う。この場合、栄養素を自分の味方につけなければ、非常に人生が困難になってしまう。
では、「どこから始めるか?」といえば、まずは血液検査をしてみるといいと思う。自己判断でサプリメントを大量に飲み始めるより、安全に取り組みをスタートできるはず。
この記事で取り上げた鉄・マグネシウム・亜鉛に関していえば、以下の項目から状況を把握できる。
- フェリチン(貯蔵鉄): 一般的な貧血検査のヘモグロビン値だけでは不十分。フェリチンが25ng/mL未満であれば貯蔵鉄が減少している状態
- 血清亜鉛: 2018年の日本臨床栄養学会の診療指針で亜鉛欠乏症の診断基準が明確化された
- 血清マグネシウム: ただし、マグネシウムは主に細胞内に存在するため、血中値が正常でも“隠れ欠乏”がありうる点に注意が必要

